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zoom RSS 漢文指導に新風を

<<   作成日時 : 2013/05/30 10:28   >>

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つい最近、漢文の指導テキストに「愛憎之主」という句が出てきた。韓非子・説難篇である。
主君が自分に愛情を持つか憎しみを持つかで自分の同じ言動でも主君のとらえ方・扱いが変わるものだから、主君を説得せんと考えるなら「愛憎之主」を察してからにしなければならない――という文脈である。

漢文法的に「愛憎之主」を考えるなら、「主語+の+述語」の名詞句か、「名詞+の+名詞」の名詞句かいずれかであろう。後者では意味が取りにくいので、おそらくは前者。「主」を動詞(やどる)と解釈して、「愛憎(のどちら)がやどっているのかを」と見るのがよいだろう。受験生にはちょっと難しい。

ところが模範の解釈例には「君主が(自分を)愛しているか憎んでいるかを」となっている。「主」を主君と取って、しかも「主」を主語、「愛憎」を述語と見て、つまり「主之愛憎」に転倒させて解釈している。確かに「之」には倒置用法を持つが、今回はその用法からは外れており倒置とは取れない。つまり文法を超えた解釈、言うなれば超訳である。
私はこの問題を先輩に当たる年配の漢文講師に聞いてみたが、いずれも
「〈愛憎の主君〉では意味が通じないから、〈主君が愛しているか憎んでいるか〉と解釈しているのだろう。なんの不思議も問題もないじゃないですか」
と異口同音に答えるのだ。

ここに大きな問題点があるのに、皆さんはお気づきだろうか。
日本語で読んで意味が通じないからといって元の漢文を改変して解釈するという乱暴さ、これが漢文読みに許されているという問題である。
まったくもってありえない。
なぜ原文に忠実に、そして漢文法で考えないのだろう。

ちなみに模範解釈の「君主が愛しているか憎んでいるかを」であるが、調べてみると新釈漢文体系がその解釈を取っている。しかし注釈には丁寧に「〈主之愛憎〉とあるべきだろう」と記されている。
本文をちゃんと校勘して倒置に直すのならまだわかる。しかし一漢文読みが「日本語で考えて意味が通じないから」といっておのれの一存で倒置に直すのはあまりに乱暴ではないか。こんなことが許されるなら、自分が誤読して意味が通じないときに勝手に原文をいじくる受験生が続出してしまうことになる。指導上それはまずい。
なのにテキストを作る側も教える側もこの調子で、完全に日本語にのみ軸足を置いて教えているのが漢文指導の実態なのだ。
ひどい話である。

私が漢文指導において成し遂げたいのはここの改革である。
日本語の延長としてしか考えない旧弊甚だしい漢文指導の打破である。
もちろん日本では長らく漢文読解のために中間翻訳語としての「訓読」が編み出されて洗練され、またその訓読と漢文教養が日本語に大きくフィードバックしてきたことも、私は承知している。偉大だと思う。そしてその訓読文化を高校国語科で学ぼうという姿勢も否定はしない。
しかし漢文そのものを漢文の文法で考えないというのは、あまりに保守的に過ぎないか。
古文解釈であっても、係り結びの再発見や活用形という概念の導入など進歩を見せてきたではないか。
漢文もここ数十年で文法の研究が飛躍的に進んできている。その成果をどうして漢文学習に応用しないのか。そうした漢文法による理解は、従来の豊かな訓読文化を殺すものとでも考えているのだろうか。
私はそうは思わない。
漢文本来の文法をしっかり理解した上で、改めて読み下しや意味を考え直すとき、訓読の奥深さがより一層理解できると確信しているのだ。

とりあえず、先の「愛憎之主」の問題。
教務のテキスト担当に改善を求める手紙を書いてみようと思い、さきほどから草稿を練っている。
この手紙が、少なくともここの漢文指導に新風を入れるきっかけになればと願っている。

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